一日が終わって、ようやく自分の時間。

ベッドに入って、なんとなくスマホを開いて、気づいたら1時間。そんな夜、ありませんか?「寝る前のスマホはよくない」ってわかってはいても、なかなかやめられないですよね。そもそも本当にそんなに悪いのかな、と思ったりもして。

実は、スマホが悪いかどうかは「何を見るか」によって変わります。問題はスマホそのものじゃなくて、寝る前に脳へ何を送り込んでいるか。そしてそれが、翌朝の自分の状態に思っている以上に影響しているんです。

睡眠の質が下がると翌日がしんどい、というのはなんとなくわかる。でも、寝る前の習慣が影響するのは「眠りの深さ」だけじゃないんです。集中力、判断力、学んだことの定着、自分時間の充実感——そのすべてが、今夜の過ごし方とつながっています。

 


 

スマホ、全部ダメじゃないらしい

「寝る前のスマホはNG」という話、半分は正しくて、半分は少し違います。

筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史教授は、「就寝前のスマホ使用は必ずしも睡眠に悪影響を及ぼすわけではない」(「睡眠学者・柳沢正史が教える「よりよい睡眠のための12箇条」」)と述べています。リラックスできる動画や、癒し系のコンテンツを見る分には、むしろ眠りを助けることもあると。最近のスマホはブルーライトカット機能も充実しているので、光そのものの問題はある程度対処できる時代になってきました。

スマホで何をするか、の方が重要です。よくない方の代表格が、ショート動画やSNS。

タイムラインをスクロールして、いいねを押して、気になる投稿を読んでコメントして——この「インタラクティブな操作」が、脳の報酬系を刺激してドーパミンを出し続けます。「もっと見たい」「次が気になる」という感覚、ありますよね。あれはまさに脳が報酬を求め続けている状態です。楽しい気持ちになる一方で、脳は情報処理モードのまま動き続けてしまう。眠ろうとしている時間に、脳が覚醒し続けているという状態です。

リラックスできる動画を流しながらうとうとするのと、SNSをスクロールしながら眠りに落ちるのでは、脳の状態がまったく違う。「スマホを使うか使わないか」より「何を脳に送り込んで眠るか」の方が、ずっと大事な問いなんです。

 


 

寝る前に見たものが、翌朝の「思考の素材」になる

ここが、多くの人が見落としている話です。

眠っている間、脳は休んでいるわけじゃないんです。海馬がその日に入ってきた記憶を整理して、定着させる作業を夜通し続けています。そして脳にとって、寝る直前に入ってきた情報は特別に処理されやすい状態にあります。眠りに落ちた後は新しい情報が入ってこないため、海馬が直前の記憶を優先的に扱えるんですね。

睡眠研究者のディーケルマン博士らの研究でも、学習後に睡眠をとったグループは、そのまま起きて別の情報を入れ続けたグループと比べて、記憶の定着率が大きく上回ることが示されています(Diekelmann & Born, Nature Reviews Neuroscience, 2010)。寝る前に何を入れるかは、記憶と学習の効率に直結しているんです。

ここで少し想像してみてください。SNSのタイムラインを眺めながら眠りについた夜、海馬が整理しているのは何でしょうか。他人の近況、感情を揺さぶるニュース、なんとなく気になった投稿——それらが翌朝の思考の「出発点」になっている可能性があります。

ノイズを入れて眠ると、翌朝もノイズから始まってしまう。なんだかもったいないと思いませんか?

逆に言えば、寝る前に意味のある情報や、穏やかな気持ちになれるものを入れて眠ると、脳はそれを優先的に整理してくれます。翌朝、頭がすっきりしている日とそうでない日の違いは、もしかしたら「前夜に何を見たか」にあるかもしれません。

 


 

「あと1本だけ」で、気づかないうちに削られているもの

もう一つ、ちょっとずつ影響を与える問題も。

忙しい一日をこなして、やっと手に入れた寝る前のひととき。本来は、一日の中で唯一、完全に自分だけのために使える時間のはずです。仕事でも家事でも誰かのためでもなく、ただ自分のための時間。それがどれだけ貴重か、改めて考えると少し切なくなりますよね。

でも「あと1本だけ」「もう少しだけ」という気持ち、すごくよくわかります。疲れているときほど、能動的に何かをする気力はないけど、ぼーっとスクロールするくらいならできる。そういうものです。

ただ、この「ぼーっとスクロール」、実はそれほどぼーっとしていないんです。東北大学の川島教授、榊助教授によると、スマホの「ダラダラ使用」が翌日の思考力・判断力に悪影響を及ぼすことを指摘しています。(「東北大学加齢医学研究所 川島教授 / 榊助教に聞くスマホ依存の危険性」

「タイムラインを流し見する行為は、一見ゆるく見えて、実は「これを見る、これはスキップ、これにいいね」という無数の小さな判断を脳に強いています。その積み重ねが、翌朝の「判断タンク」を前借りしてしまっているんです。

睡眠時間が削られるだけじゃありません。自分のための時間が消えて、翌日のリソースまで先に使われている。「あと1本だけ」のコストは、思っているより大きいかもしれません。

 


 

じゃあ、その時間を何に使うか

「スマホをやめよう」と気合いを入れると、たいてい長続きしません。やめること自体をゴールにすると、我慢と罪悪感の繰り返しになりがちだから。しかも疲れているときに意志の力だけで何かをやめるのは、かなりしんどい。

それよりも「その時間を、翌日の自分への投資に使う」という考え方の方が、自然と続けやすいと思います。何かをやめるより、何かを始める方が人間には向いているので。

手軽方法の一つが読書です。紙の本を少し読むだけで、ストレスが和らいでリラックスしやすくなります。

イギリス・サセックス大学の研究(Lewis, D. (2009). Galaxy Stress Research. Mindlab International, University of Sussex.

)によれば、たった6分の読書でストレスが68%軽減されたという結果が出ています。音楽を聴く(61%)、散歩する(42%)、お茶を飲む(54%)といった方法と比べても、読書が一番効果が高かったというから驚きですよね。脳が文字の世界に没頭することで、日常の心配事から自然と離れられるんだそうです。

そして、手書きもおすすめです。「ナショナル ジオグラフィック」が紹介した研究によれば、手書きはキーボード入力より記憶の定着と集中力の向上に効果的で、複数の脳領域を活性化させます。今日あったことや明日やりたいことを数行書き出すだけでも、脳が「整理モード」に入りやすくなりますよ。気張らなくていいです。箇条書きでも、走り書きでも十分です。

あるいは、何もしない時間でもいいんです。ぼーっとする、ストレッチをする、好きなお茶を飲む——情報を処理しない時間が、脳の疲れをリセットしてくれます。「何もしないのが一番難しい」という人も多いですが、それが一番の贅沢かもしれません。

「受動的に情報を消費する時間」から「自分のために使う時間」へ。たった30分の使い方が、翌朝の自分をつくっています。

 


 

今夜の習慣が、明日の自分をつくる

スマホが悪いわけじゃないんです。何を見るか、どう使うかが大事なんです。

SNSのような脳を興奮させる使い方は、眠りの質を下げるだけでなく、翌朝の思考力や判断力、学習の定着にまで静かに影響しています。でも逆に言えば、寝る前の習慣を少し変えるだけで、翌日のパフォーマンスは変わってきます。睡眠時間を増やさなくても、寝る前の30分の使い方を変えるだけで、です。

とはいえ「わかってはいるけど、やめられない」というのが正直なところだと思います。スマホを手放すのが難しいのには、ちゃんとした理由があります。意志が弱いわけでも、だらしないわけでもなくて、スマホがそういうふうに設計されているから。

次の記事では、寝る前のスマホ習慣を無理なく変えていくための、具体的な方法をご紹介します。

次の記事: 寝る前のスマホをやめると、翌日が変わる。無理なく続けられる習慣の変え方」