前回の記事では、寝る前の習慣が翌日の集中力や記憶の定着に影響することをお伝えしました。とはいえ「わかってはいるけど、やめられない」というのが正直なところだと思います。スマホを手放すのが難しいのには、ちゃんとした理由があるんです。

今回はまず「なぜやめられないのか」を理解して、そのうえで無理なく続けられる方法をご紹介します。意志の強さは関係ありません。

 


 

なかなかやめられないのは、そう設計されているから

SNSやゲームのアプリは、手放しにくいように設計されています。

SNSやショート動画には「無限スクロール」という仕組みがあり、終わりがありません。新しい投稿が出てくるたびに脳は「もっと見たい」という快感を感じ、「あと一本だけ」「あと少しだけ」という感覚が繰り返されます。研究者はこれを「ドーパミン・スクローリング」と呼んでいます。脳が気持ちよさを求め続ける仕組みを絶え間なく刺激することで、意識的な自制心を上回ってしまうのです。

つまり、やめられないのは意志が弱いからではありません。そういうふうに作られているから、です。

そのことを知るだけで、少し気持ちが楽になりませんか。

 


 

問題は「スマホそのもの」じゃなく、「何を見るか」だった

実は、スマホが睡眠に与える影響は、使い方によってまったく変わります。

就寝前に見るコンテンツの種類と、眠りへの影響をまとめるとこうなります。

コンテンツの種類

心理的・生理的影響

眠りへの影響

インタラクティブ・ゲーム

脳が興奮し、アドレナリンが出る

極めて悪い(眠れなくなる)

SNSでの論争・比較

感情的なストレス、ストレスホルモンが増える

極めて悪い(気持ちが落ち着かない)

ショッキングなニュース

不安が増大し、体が警戒モードになる

悪い(リラックスできない)

受動的なエンタメ動画

適度な関心、気持ちが和らぐ

中程度(内容に依存)

穏やかな音楽・環境音

心と体がリラックスし、雑音がかき消される

良い(眠りに入りやすくなる)

ゲームやSNSが「極めて悪い」一方で、穏やかな音楽や環境音は「眠りに入りやすくなる」と出ています。スマホを一律に悪者にするより、「何を見るか」を変えることの方が、実は大きな差を生みます。

 


 

逆に、スマホを「眠るための道具」にする

スマホを見る習慣をすぐにやめることが難しければ、使い方を変えることから始めてもいいかもしれません。

波の音や雨の音、ホワイトノイズといった「環境音」を流しながら眠る方法があります。外の騒音をかき消して、安定した静かな環境を作ってくれます。ハーバード大学の研究でも、こうした環境音が眠りにつくのを助けることが確認されています。

また、CalmやHeadspaceといった瞑想アプリを使う方法もあります。就寝前に思考がぐるぐると止まらない、という経験をした方は多いと思います。ガイド付きの瞑想は、その「頭の中のうるさい声」を静めてくれる効果があります。こうしたアプリを使っているユーザーの多くが、眠りにつくまでの時間が短くなったと実感したという調査結果も出ています。

スマホを「見る」道具から「聴く」道具に切り替えるだけで、夜の使い方がまるで変わります。

 


 

スマホをやめると、翌日が変わる

とはいえ、やはりスマホを置いて眠れるなら、それに越したことはありません。具体的に何が変わるのかをお伝えします。

眠りが深くなります。 スマホの画面から出るブルーライトは、眠りを促すホルモン(メラトニン)の分泌を最大46%も抑えてしまうことがわかっています。スマホを手放すことで、自然な眠りのリズムが戻り始めます。

翌朝の頭がすっきりします。 就寝前に見たSNSやニュースの情報は、脳が眠っている間に処理されます。不安やネガティブな感情が寝際に入ってくると、脳はその状態のまま眠ることになる。穏やかな状態で眠れると、翌朝の思考が整いやすくなります。

集中力と判断力が戻ってきます。 深い眠りの時間がしっかり確保されると、脳の処理能力が回復します。「なんとなくぼんやりする感じ」が続いている方は、この時間が足りていないサインかもしれません。

 


 

意志に頼らない。「仕組み」で変える

大事なのは、やめようとするより、やめられる環境にすることです。

寝室の外で充電する

もっともシンプルで、もっとも効果的な方法です。スマホが手の届かない場所にあるだけで、夜中の衝動的なチェックをかなり防ぐことができます。「目覚ましに使っている」という方は、アナログの目覚まし時計を一つ用意するだけで、スマホを寝室に持ち込む理由がなくなります。

画面をモノクロにする

スマホの設定で、画面を白黒表示に変えることができます。カラフルなアイコンや赤い通知バッジは、脳が「気になる」と感じるように設計されています。色をなくすだけで、スマホへの衝動がかなり落ち着きます。

「もし〜なら、〜する」を決めておく

「もし夜10時のアラームが鳴ったら、スマホをリビングに置いて、本を開く」——こうして行動をあらかじめ決めておくだけで、目標の達成率が約40%上がることが研究でわかっています(行動心理学では「IF-THENプランニング」と呼ばれる手法です)。その場で考えると意志力が必要ですが、あらかじめ決めてあれば判断が要りません。

 


 

「やめた後」に何をするか

スマホを置いた後の時間を、何か別のもので埋めることができると、習慣は続きやすくなります。

明日のことを紙に書き出す

ベイラー大学の研究によれば、就寝前の5分間に「明日やること」を書き出すだけで、眠りにつくまでの時間が平均9分短縮されたそうです。頭の中でぐるぐる考え続けるのではなく、紙に出してしまうことで脳が「処理済み」と判断して落ち着けるのです。手帳やノートを枕元に置いておくだけで、スマホへの手の動きが変わります。

本を読む——紙か、電子ペーパーか

前回の記事でもご紹介したとおり、読書には高いリラックス効果があります。ここで一つ、デバイス選びのヒントをお伝えします。

スマホやタブレットは画面自体が光を発しているため、ブルーライトの影響を受けます。一方、KindleなどのE-inkリーダー(画面が光らない電子ペーパータイプ)は、紙と同じように外の光を反射して文字を表示するため、目に直接光を当てません。ハーバード大学の研究では、画面が光るデバイスで読書した人は紙やE-inkで読んだ人に比べ、眠りにつくのが遅くなり、翌朝の注意力が下がることが示されています。

「紙の本が一番」というのが結論ではありますが、電子書籍で読みたい方はE-inkリーダーを選ぶことで、スマホとはまったく違う体験ができます。

何もしない時間を許可する

ぼーっとすること、天井を眺めること、それで十分です。「何かしなければ」という感覚はスマホが育てたもので、本来の眠りへの入り口はもっと静かなものです。


 

一晩で変えなくていい

習慣は、少しずつ育つものです。

まず今夜、一つだけ試してみてください。充電器をリビングに置く、画面を白黒にしてみる、それだけでいい。

翌朝の目覚めが少し変わったら、それがこの習慣を続ける理由になります。