「今年こそは」と意気込んで買った参考書が、最初の数ページしか開かれていない——。 そんな経験はありませんか?

私たちはつい、勉強が続かないのを「自分の意志が弱いからだ」と責めてしまいがちです。しかし、世界で最も成功している言語学習アプリといわれる『Duolingo』の考え方は違います。

彼らは言います。「続くかどうかは、意志の強さではなく、『仕組み』の問題だ」と。

今回は、世界中のユーザーを学習の虜にしているDuolingoの仕掛けを紐解きながら、それを学習者にとってはスマホなどのデジタル機器よりもまだまだ一般的な学習方法である「紙のノートやペン」というアナログな道具で、勉強を確実に継続させるための工夫をご紹介します。

継続することこそ、一番の力になる


Duolingoが他の学習アプリと決定的に違うのは、学習の効率よりも「継続率(また明日もアプリを開いてくれるか)」を最優先に設計している点です。

「1日15分やらないと意味がない」ではなく、「1日1問でもいいから、途切れさせない」こと。

とても興味深いことに、彼らは「Duolingoよりも学習効果の高い方法は他にある(例えば現地の家庭教師など)」と認めています。 しかし、どんなに学習効果の高い方法でも、続けられなければ意味がありません。「最高の方法で三日坊主になるより、多少遠回りでも続ける方が強い」という信念で設計されているのです。

実際、CEOのルイス・フォン・アーン氏が、TED Talksやインタビューでこのように語っています。

「言語を学ぶ最も効率的な方法は、人間の家庭教師をつけることだ(あるいはその国に住むことだ)。しかし、それはお金も時間もかかる。アプリで学ぶ時、最大の敵は『難しさ』ではなく『退屈』だ。だから我々は教育アプリではなく、エンターテインメントを作るつもりで設計している」

なぜ私たちは、あの「緑のフクロウ」を無視できないのか?

世界で5億人以上が利用すると言われるDuolingo。その「魔力」の正体は、単なるゲーム性だけではありません。そこには、行動経済学に基づいた巧妙な「脳のハック(仕組み)」が隠されています。

私たちがアナログの学習に取り入れるべきは、特に次の3つの要素です。

1. ドーパミンが出る「即時フィードバック」
Duolingoで正解すると、「ピンポン!」という軽快な音とともに、キャラクターが褒めてくれます。 実はこれ、脳に「ドーパミン(快楽物質)」を出させるための非常に重要な設計です。

学習という苦痛を伴う行為に対し、「行動する→即座に報酬(音・演出)がある」というサイクルを作ることで、脳が「勉強=気持ちいいこと」と錯覚するように作られているのです。

2. 損失回避の法則
人間は「得をすること」よりも「損をすること」を2倍以上強く嫌うという心理特性(プロスペクト理論)があります。 積み上げた「連続記録(ストリーク)」が0になる恐怖。これこそが、眠い目をこすってでも「あと1レッスンだけ」とアプリを開かせてしまう最強の動機づけです。

彼らは「やる気」ではなく、この「失いたくない」という感情を利用しています。

3. 完璧主義を壊す「ストリークフリーズ」
これが最も秀逸な点ですが、Duolingoには「連続記録を1日だけ守れるアイテム(ストリークフリーズ)」が存在します。

真面目な人ほど、1日サボっただけで「もういいや」と全てを投げ出してしまう現象(どうにでもなれ効果)に陥りがちです。しかし、この「公認のサボり救済措置」があることで、完璧主義の罠を回避し、翌日からまた学習に戻ってこれるのです。

 

アナログで学習の「積み上げ」を可視化する

では、デジタルの通知が来ない私たちは、どうやってこの仕組みを取り入れればいいでしょうか? おすすめなのは、手帳やノートを使った「習慣の可視化(ハビットトラッカー)」です。

文字では少し難しく聞こえるかもしれませんが、やることはシンプルです。「やったこと」を目に見える形で残す、ただそれだけです。

さらにいうと、スマホの画面をタップするよりも、物理的にペンで紙にインクを乗せる行為の方が、脳への刺激や達成感は強いと言われています。

 

今日からできる、継続のためのアイデア

・カレンダーに「印」をつける

もっとも簡単な方法は、普段使っている月間カレンダーや卓上カレンダーを使うことです。勉強を少しでもやったら、その日に好きなペンで「◯」を書いたり、お気に入りのシールを貼ったりします。 カレンダー上で◯やシールが繋がって帯のようになってくると、それを途切れさせるのがもったいなく感じてきます。その「もったいない」という感情が、疲れた日の背中を押してくれます。

・方眼ノートを塗りつぶす→

勉強用ノートの表紙裏や、最初の一枚を使って、30個(あるいは100個)のマス目を書きます。1日勉強するごとに、1マスを好きな色で塗りつぶしていきます。 RPGゲームのレベル上げのように、徐々にマスが埋まっていく様子は、言葉にできない充実感を与えてくれます。

・タスクリストに「着席チェック」を作る

ToDoリストを作る際、「参考書を5ページ進める」といった目標とは別に、「机に座った」という事実だけを記録するチェックボックスを作ってみてください。

もし5ページ進まなくても、机に向かってノートを開きさえすれば、そのボックスにはチェックを入れます。

「勉強の成果」は日によってバラつきが出ますが、「行動した事実」は裏切りません。絶対にクリアできるチェック項目を作ることで、自己嫌悪に陥るのを防ぎ、継続の鎖を繋ぎ止めることができます。

 

ハードルは「またげる高さ」まで下げる

Duolingoの特徴は、1レッスンが短く、すぐに終わることです。

多くの人は、勉強を始める前に「よし、今から1時間やるぞ」と気合を入れてしまいます。しかし、脳にとって大きな変化はストレスであり、無意識にブレーキをかけてしまいます。

「ハードルは、またげる高さにする」のが鉄則です。

× 「テキストを1章進める」

○ 「お気に入りのノートを開いて、日付だけ書く」

ここまでハードルを下げてみてください。 実は、脳には「作業興奮」という性質があり、一度やり始めさえすれば、やる気があとから湧いてくるようにできています。

そのために、「ノートを机の上に広げたままにしておく」のも有効な作戦です。

「本棚から取り出して、ページを開く」という数秒の手間すら、疲れている時には壁になります。

常に「書く準備」ができている状態を作っておくこと。 机の上に置かれたそのノートが、ふとした瞬間に「ちょっとだけ書いてみようかな」という気持ちを誘ってくれるはずです。

 

まとめ:意志ではなく「仕組み」に頼ろう

「勉強が続かない」 それはあなたの性格のせいでも、やる気の問題でもありません。単に、脳が「続けたくなる仕組み」になっていなかっただけです。

Duolingoが教えてくれたのは、意志の力に頼らず、脳の性質をうまく利用することの重要性でした。

  • カレンダーなどで、積み上げを「可視化」する(損失回避)

  • ハードルを極限まで下げて、とにかく「始める」(作業興奮)

デジタルであれアナログであれ、この本質は変わりません。

今日から、「頑張ろう」と気合を入れるのをやめてみませんか? その代わりに、カレンダーに印をつけたり、ノートをただ机に広げておくだけにしてみる。

そんな小さな「仕組み」の積み重ねこそが、数ヶ月後のあなたを大きく変えるはずです。

 

【コラム】もし、記録が途切れてしまったら?

「あ、昨日勉強し忘れた…」と、例えば 30日間続いた連続記録が途切れると、一気にやる気が失せてしまうことがあります。そんな時は、こう考えてみてください。

1. 「休息」も記録のうち 空いたマスを、普段と違う色のペンで塗りつぶし、「休息日」として記録してしまいましょう。これで鎖は繋がり続けます。

2. 今日から「シーズン2」の始まり 記録が途切れたのではありません。シーズン1が完結したのです。今日からは心機一転、「シーズン2」の第1話。新しい気持ちでページをめくりましょう。

完璧を目指す必要はありません。「戻ってくること」ができるための工夫もしましょう。

※この「挫折しないためのリカバリー術」については、こちらの記事でさらに詳しく掘り下げています。

「継続は力なり」と言うけれど。継続記録が途切れてしまったとき、どう立て直せばいい?