「継続は力なり」。 とても美しい言葉ですが、時にその言葉が、私たちを少し苦しくさせることがあるかもしれません。

(前回の記事では、「継続することの効果と、無理なく続けるための仕組み」についてお話ししました。)

どんなに良い仕組みを作っても、人間には「どうしてもできない日」が訪れます。 私たちが本当に悩み、知りたいのは、「続ける方法」そのものよりも、**「もし、その継続がふと途切れてしまった時、どうやって気持ちを立て直せばいいのか?」**ということではないでしょうか。

毎日やると決めた英語学習、30日続いた日記、毎朝の読書。 どんなに固い決意で始めても、急な残業や体調不良、あるいはほんの少しの気分のムラで、その「連続記録」が途切れてしまう日は必ずやってきます。

そして、多くの人がこう感じてしまいます。 「あーあ、昨日サボってしまった。……もう、いいや」

積み上げてきたカレンダーの「◯」の中に、たったひとつ「×」がついただけで、それまでの努力がすべて無駄になったように感じてしまう。 その気持ち、痛いほどよくわかります。 でも、そこで終わらせてしまうのは、あまりにももったいないことです。

今回は、記録が途切れてやる気がゼロになってしまった時、自分を責めることなく、優しく気持ちをリセットして「再起動」するためのヒントについてお話しします。


1. 完璧主義が、自分自身を苦しめてしまう

私たちは子供の頃から「皆勤賞」を褒められることが多かったせいか、無意識のうちに**「継続=一度も休まないこと」**と思い込んでしまっているのかもしれません。

でも、大人の毎日は予測不能な出来事の連続です。 仕事のトラブル、家族の用事、どうしても体が動かない日。そんな中で「無欠席」を目指すのは、雨の日に傘をささずに濡れまいとするようなもの。少し無理があるのかもしれません。

心理学に**「どうにでもなれ効果(What-the-hell effect)」**という言葉があります。 ダイエット中にクッキーを1枚食べてしまった罪悪感から、「もうどうにでもなれ!」と残りのクッキーを全部食べてしまう心理のことです。

勉強もこれと同じです。「1日できなかった」という事実よりも、「1日できなかった自分への失望」が、継続を止めてしまう一番の原因なのです。 タイヤが1本パンクしたからといって、残りの3本のタイヤまでダメにする必要はありませんよね。 まずは、「休んでしまう日があってもいい」と、自分を許してあげることから始めてみませんか。

 

2. 「シーズン制」で区切りをつける

 

記録が途切れてしまった時、一番つらいのは「30日積み上げてきた数字が、0に戻ってしまった」と感じることではないでしょうか。 このガッカリ感を和らげるために、海外ドラマのような**「シーズン制」**という考え方を取り入れてみるのはどうでしょう。

もし習慣が途切れてしまったら、「失敗した」と考えるのをやめてみます。 代わりに、こう宣言してしまうのです。 「シーズン1、これにて完結!」

人気ドラマのシーズン1が終わっても、物語が台無しになったわけではありませんよね。素晴らしいエンディングを迎えただけです。 そして、翌日から始まるのは、敗者復活戦ではありません。 心機一転、新しい展開が待っている**「シーズン2」の第1話**です。

「記録がリセットされた」と嘆くのではなく、「今日からまた、新しいシーズンを始められる」。 そう捉え直すだけで、脳がリフレッシュされ、「またちょっとやってみようかな」という気持ちが湧いてくるはずです。

 

3. 「2日ルール」というお守り

 

ベストセラー『Atomic Habits(複利で伸びる1つの習慣)』の著者が提唱する**「2日ルール」**も、私たちの心を軽くしてくれる考え方です。

ルールはとてもシンプルです。 「1日休むのはOK。でも、2日連続では休まない」

1日の休みは、長い人生においてはただの「誤差」であり、必要な「休息」です。 でも、2日連続で休んでしまうと、それは「休む」という新しい習慣の始まりになってしまうかもしれません。

「昨日はできなかった。だから今日は5分だけでも机に向かってみよう」 そう思えれば十分です。 もしカレンダーに穴が空いても、そこをあえて普段と違う色のペンで塗りつぶし、「休息日」として記録してしまいましょう。 そうすれば、気持ちの上で「継続の鎖」は繋がったままです。

 

4. 再開する日は「とことんハードルを下げる」

 

久しぶりに運動をする人が、いきなりフルマラソンを走ったら怪我をしてしまいます。勉強の再開も同じです。 習慣が途切れた後の「再開初日」に、以前と同じ量(例えば1時間の勉強)をやろうとする必要はありません。それがプレッシャーになり、「また今度でいいや」と先延ばししてしまう原因になるからです。

再開初日は、**「笑ってしまうほど低い目標」**を設定してみてください。

  • 参考書を1ページだけ読む

  • お気に入りのノートを開いて、日付だけ書く

  • 単語を3つだけ眺める

これだけで十分です。 目的は「知識を得ること」ではなく、**「脳に『戻ってきたよ』と信号を送ること」**だからです。 物足りないくらいで終えるのが、翌日以降も続けるためのコツです。

 

5. 道具の力を借りて、気分を変える

 

最後に、少しだけ道具の力を借りてみるのも効果的です。 気持ちが乗らない時は、環境や道具の力を借りて、視覚的に「リセット」を行うと、スイッチが入りやすくなります。

  • 新しいページを開く: 中途半端に終わったページの続きから書くのではなく、潔く新しいページ(あるいは新しい見開き)から始めてみます。真っ白な余白には、過去の失敗をリセットしてくれる効果があります。

  • インクの色を変える: 「シーズン1」を黒のボールペンで書いていたなら、「シーズン2」はブルーブラックやセピア色に変えてみるのも素敵です。

  • 場所を変える: いつも自室でやっているなら、再開初日だけはカフェやリビングでやってみる。

「いつもと違う」という新鮮な刺激は、脳の好奇心をくすぐり、「やらなきゃ」という義務感を「ちょっと書いてみたい」という楽しみに変えてくれます。


まとめ:しなやかに戻れる人が、長く走り続けられる

人生において、一度も転ばずに走り続けられる人などいません。 本当に長く続けられる人とは、転ばない人ではなく、**「転んだ後に、軽く服のホコリを払って、また歩き出せる人」**のことではないでしょうか。

記録が途切れても、どうか自分を責めないでください。 深呼吸をして、新しいページをめくってみましょう。 今日が、あなたにとって最高の「シーズン2」の始まりです。